こんにちは。
整形外科医師ブロガーのボククボです。
医師が使う隠語・略語の話です。
医者が隠語を使うのは、
- 患者さんに隠したい
- 患者さんに心配させない
- 短くて単純に便利
からです。
今回は、医師の使う隠語を、
いくつかのパターンに分けて、
代表的なものをご紹介します。
目次
患者さんにバレたくない
患者さんに内容を聞かれたくない場合に
使う隠語です。
エッセン、エッシェン
エッセン(essen)とは、
ドイツ語で「食べる」という意味です。
患者さんではなく、医者の
食事(出前とか)を指します。
使用例
ボククボが研修医と救急外来で診察中とします。
そこで研修医のPHSが鳴ります。
研修医「もしもし。はい、わかりました。」
ボククボ「何?急用?」
研修医「エッセンが到着したそうです!」
(訳:頼んでた出前が来たみたいです。)
ボククボ「そうか、ここは任せていってこい!」
(訳:受け取って、さっき渡した金で払っといて)
飯のことぐらい、
話しても大丈夫なんですけどね。。。
腹痛の患者さんとかもいますから、
なんか悪い気がします。
研究日
研究日とは、ざっくりいうと、
バイトでいない日です。
契約上、週5勤務で常勤ですが、
半日か一日いない日があります。
まあ、土日も働くので曖昧なんですよね。
直訳すると
「自由に研究などにいそしんでよい日」
なんですが、
結局、高額のアルバイトに精を出します。
ホントに研究している人や、
子育てに充てる人もいる
ようです。
使用例
救急外来で急患の人の手術枠相談
ボククボ
「たしか来週の火曜午後、手術枠あいてたよね?
俺、外来で無理だから担当できる?」
部下の医師
「ありがとうございます。
でも僕、火曜は研究日です。」
(訳:火曜はバイトでお金稼いでます。)
ボククボ
「そうか。なら、他の人に頼むわ。」
威厳を損なわずにすみました。
余談ですが、医師は研究日の有無で
年収が300-500万ほどちがってきます。
口に出すのがはばかられる
病院なのでよくない事も起こりますが、
口にだすのがはばかられることもあります。
ステる
ドイツ語で「sterben」
「死ぬ」という意味です。
さすがに、院内では多用できない言葉です。
使用例
ボククボ「昨日、急変した人どうなった?
ICUだっけ?」
他の医師
「いえ、昨夜ステりました。
CPAになったんですが、DNARだったので。」
死亡関係は略語・隠語のオンパレードです。
CPA(シーピーエー)
ついでに解説すると、
CPAは、CardioPulmonary Arrest
=「心肺停止」の英語です。
隠語というわけではないですね。
単純にアレストというと心停止のみを指します。
DNAR・DNR
これもついでに解説します。
DNAR:Do not attempt to resuscitate
DNR:Do not resuscitate
です。両方とも
「心肺蘇生しないでください」
という意思表示を指します
(家族・本人の希望)
DNRは古い言葉で、
「蘇生しようとしなくても、
蘇生することはあるし、それを
否定するのはおかしい」
という考え方から、
A:attempt to (試みる)
が追加されたそうです。
もう一度、
「ステる」の使用例を確認してみてください。
CPA、DNARも使用されています。
患者さんに伝えるのがはばかられる
ガンなどの悪性腫瘍について、
「本人に告知しない」
なんてことは、現在ありえません。
ただ、伝えるときには、
それなりの準備・場面があります。
なので、いまだに悪性腫瘍関係では
隠語・略語が多いです。
電子カルテも、患者さんから見えるので、
あえて略語を使います。
カルチ
カルチとはCarcinoma(カルチノーマ)の略です。
病理学用語で「がん」のことです。
(一般的にはCancer=ガンですかね。)
メタ
メタとは、metastasis(メタステーシス)の略です。
がんの「転移」を指す言葉ですね。
骨転移なら、骨メタ
肺転移なら肺メタ
と言います。
BSC
BSCは、Best Supportive Careの略です。
日本語では「支持療法」
つまり、「緩和ケア」です。
手術や化学療法、免疫療法など、
治癒や延命を目的とした治療をせず、
除痛などを優先する状態になります。
カルチ・メタ・BSCの使用例
口頭でも使いますが、
カルテ上で使うことが多いです。
カルテには経過のまとめが
書かれていますが、患者さんにも
画面が見えてしまいます。
「大腸がんの骨転移あり、
緩和ケアの方針となっている患者」
と電子カルテに書いてあれば、
患者さんに丸見えです。
たとえ告知済みでも嫌な気分でしょう。
「大腸Ca.で骨meta(+)、BSCの方針」
と書いてあれば、内容は同じですし、
医師であれば誰でもわかります。
単純に短く言いたい
頻用するものは
短く言いたくなります。
医学用語って長いですからね。
アポる
アポるとは「脳梗塞を発症する」という意味です。
語源は、Apoplexy
(古い英語で【脳卒中】の意味)
です。
脳卒中はざっくりいうと
脳梗塞と脳出血を合わせた概念ですが、
「アポる」は、脳梗塞だけを指しますので、
注意が必要ですね。
脳出血(2種類あります)
はまた別の言い方がありますので
後述します。
使用例
医師A
「先週のあの手術、うまくいったの?」
ボククボ
「いや、手術自体はうまくいったんですけど
術後アポっちゃいまして。。。」
医師A
「あー、ハイリスクそうな人だったもんな」
SAH:ザー
「ザー」という言葉は救急外来で多用されます。
Subarachnoid hemorrhageの頭文字でSAH
「くも膜下出血」のことです。
SAHをザーと読みます。
「外傷性くも膜下出血」(ケガによる出血)
はガイザー(外ザー)
ちょっとした出血(手術にならないぐらいの)
はチョロザー(チョロSAH)
と言ったりします。
応用範囲は広いですね。
マンコウ
締めにふさわしいのは、
マンコウでしょうか。
「慢性硬膜外血腫」の略です。
お年寄りが頭をぶつけた後に起こる、
頭がい骨の中で血がたまる
ケガのことです。
使用例
ボククボ
「脳外科のザーの手術中止になったよね?
その枠空いてる?」
手術室看護師
「マンコウに差し替えになりました!」